弊社で製品ににがりを加用し始めたのは、昭和40年代に遡ります。
江戸時代においてはしょうゆは海水または海水の組成に近いにがり分をたっぷりと含んだ塩で作るものでした。ところが近代に近づくにつれ塩の専売化や規制により、本来の塩がなかなか手に入らなくなったことを受けて、当時においてはよい塩の代表格であった再結晶塩を使うことでにがりの効用をそのまま残すことにしたのです。しかし、問題になったのが再結晶塩の価格と供給量でした。ご存知のとおりしょうゆ作りにはかなりの量の塩を使用しますので再結晶塩のような特殊塩では供給量も不安定になる恐れがあり、またある程度安価な塩でなければ実際の販売には支障を来すことから、やはり再結晶塩そのものを使うことは難しい面があったのです。そこで苦肉の策として編み出したのが、再結晶塩をつくる工程の一部を弊社内で代行する方法、つまり現在の輸入天日干し塩ににがりを添加する方法でした。こうすれば塩そのものの安定した供給が期待できますし、何よりしょうゆには塩を溶かして使うのですから、再結晶して乾燥させる手間を省ける分、再結晶塩を使うよりもずっと安価で同じ結果が得られるわけです。
余談になりますが、しょうゆの味の構成要素においてにがりの果たす役割は相当大きなものです。この苦味があるからこそ味わいの奥深さができ、単に塩辛いだけでない旨みを引き立てることができます。
従いまして、弊社におけるにがりの使用、ひいては海水そのものの使用は250年以上にわたり続けてきたことです。現在は仕込み用塩水に溶かして使用しております。
この途中においてJAS法が制定され、また本年4月からはにがりの表示について「粗製海水塩化マグネシウム」という表現を用いるようにとの規制ができたわけですが、弊社の考えるにがりというものは本来の塩に含まれている不可欠成分であり、添加物としてのにがりではありません。確かに現在使用しているにがりについては「粗製海水塩化マグネシウム」ではありますが、弊社としては再結晶塩そのものの表示方法についても異論のあるところです。
また減塩しょうゆと同様、これについても製造方法自体は開発当初より変わっておらず、これまでの工場調査時にはなんらご指摘もなかったことが今になってこれらが格付違反であるというのはいささか納得しがたく、にがりの使用は本来のしょうゆ作りそのものを維持する上では欠かせない要素であることを是非ともご理解いただければと思っております。
また三年醸造しょうゆについても、これらの生揚げを使用して再仕込み製法にて麹を仕込み、3年以上の月日を経てもろみを熟成させる製法は昔も今も変わっておりません。3年醸造といいながら、5年さらには7年もの年月の間熟成させることもあるのです。
最後に、現在のJASの格付け基準が、どのような経緯を経ていかなる見識に基づいてできたものかはよくわかりませんが、少なくとも、私どものような伝統製法を必死で守っているメーカーにとっては、最近のJASの傾向はわれわれの存在意義が少しずつ否定されているかのような気がしてなりません。
その昔、全国各地に個性的な醤油蔵が多く存在し、切磋琢磨して味を競っていたことを本来の食文化のあるべき原点とお考えであるならば、このような大手中心の画一的な格付基準だけでなく、これからの醤油づくりがより多様性に富み、しょうゆ業界自体が発展する可能性も含めた基準も是非ご考案賜りたく、心よりお願い申し上げる次第です。
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